冷たい雨に咲く紅い花【前篇】

 †


紘夜に教えられた住所に辿り着き呼び鈴を鳴らすと、
中から白衣を着た長身の男が現れた。

「さ、どーぞー」

俺が何も言ってないのに、
その男は中に俺を促し、自分はどんどん奥に戻っていく。

俺は遅れをとらない様に急いで玄関でスリッパに履き替え、中に入った。


〝吉水医院〟と書かれたビルの、その中に。


それにしても、
この男、白衣を着ているが医者なのか?


赤茶色の髪が混ざった少し長めの髪、
男の俺から見ても整った顔立ち、

白衣は妙に似合っているが、

医者というより、
女性客を相手にする仕事が得意そうに見えるがーー


などと考えてると、

「実織ちゃんは今寝てるから、まだ起こさないように。紘が、君と話したいらしい」

ドアを開ける前に、
その医者らしき男は人差し指を口元にあてた後、ドアの奥を指差した。


紘、というのは、
紘夜のことだろう。


「わかった」

そう短く答え、俺は開けられたドアを進んだ。



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