冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
部屋に入ると、
病室というより、普通の部屋にみえた。
アルミの本棚
40型くらいはある大きなテレビ
黒いテレビ台
雑誌や新聞が幾つか床に重なって置いてあった。
転がる、ビールの缶
テーブルには
黒い見慣れない煙草と鈍色のライターが置いてあった。
そして、
部屋の奥にある黒いソファには、
静かに眠る、
実織の姿。
「実……」
名を思わず呼びそうになったが、
こらえる。
微かに聞こえる寝息。
着替えたのか、
制服ではなく、見た事の無い淡い水色のシャツ風のワンピースを着ていたが、
見たところケガもなさそうだ。
よかった…
安堵の溜め息が零れた、
その時、
「準…悪かった…」
憶えのある低い声に、
肩が、
震えた。
〝準〟そう、名を呼ぶ、
懐かしい声。