冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
「……いまさら謝られても、遅いんだよ」

声の方に振り返り、
俺は平静を装って答える、

が、

その光景に息をのんだ。


黒いパイプベッドに横たわる紘夜。

そのカラダは白い包帯が至る所を覆い隠し、
顔色は悪く、
その顔にも殴られたような跡があった。


……やっぱりな。お前の大丈夫は信用出来ない。

ーー昔から


深い溜め息が零れる。
静音さんがこの様子を見たら、倒れるかもしれない。

思うと、胸が痛んだ。


「静音さんには紘夜も大丈夫だと伝えた。仕事で2、3週間は帰れないと話しておいた」

「助かる。静音には余計な心配させたくない」

俺とは視線を合わせず、目を閉じたまま紘夜は答える。


「もう二度と実織には会うな、お前にそう言ったよな?」

「…あぁ。でも、俺が実織に会いに行った。
……その結果、この状態に巻き込んでしまった。すまない、本当にーー」


ガン!
俺はパイプベッドそばの壁に、思いきり拳を叩きつけた。


「お前がそんな状態じゃなかったら、2、3発殴ってるとこだ」


運動神経のいいお前にかわされるかもしれないが、
あたるまで殴りつける、

何度でも。


それくらい、

腹が立った。


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