冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
お前は周りを突き放すくせに、
みんな、
お前を突き放せないんだ。
実織も、
静音さんも、
きっとあの医者も、
そして、俺も……
なのにお前はただ一人だけは
その手に掴んだ。
達花実織、
ただ一人だけは。
静かに目を開き、
紘夜は天井を見つめる。
「実織をこれ以上危ない目には合わせない。だから、」
「だから、切るのか?俺のように?」
冷たい言葉を投げかける俺に、
紘夜は静かに視線を移し、
「ーーいや、切れそうもない。
俺は実織を離したくない」
真っすぐに俺を見て、言葉にする紘夜。
「……へぇ…変わったな、紘夜。……いや、実織に会って、変わったか?」
「そうだろうな」
ふ、
と静かに笑う紘夜。
昔に戻ったような、不思議な感覚がした。