冷たい雨に咲く紅い花【前篇】

「あ、愛って……」

私はちょっと恥ずかしくなり、口ごもっていると、


「相変わらず恥ずかしいこと言ってんなよ、吉水」

呆れた口調の紘夜。

その紘夜に、
吉水さんは口の端を上げ、笑う。

「へぇ、オレの前で実織ちゃんに噛みつくようなキスした紘の方が、よっぽど恥ずかしいと思うけど?」


か、噛みつくような

キ、
ーーースって……


「別に、俺はなんともーー」

「私が恥ずかしいから!」

サラッとした紘夜を、
今度は私が引っ張るように、早足で歩き出す。


けど、
くるっと、吉水さんの方を振り返り、


「吉水さん、ありがとうございました」

ぺこっとお辞儀をした。



< 362 / 413 >

この作品をシェア

pagetop