冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
ー紘夜ー
†
樹々の中、
緋刃を追いながら、俺はジャケットから黒い携帯を取り出し、
暗記している番号を押していった。
今まで、携帯電話は持たなかった。
素性がバレそうなものは持たないようにしていた。
が、
吉水の所にいた時、実織との連絡用に吉水に用意してもらった。
ただアドレス帳は使用せず、
今まで通り知り合いの電話番号とアドレスは暗記していた。
電話の履歴、メールの履歴も、
使用後すぐに消去していたが、
どうも実織の事になると、
今までとは違う俺になってしまう。
それがいいことなのか、
どうかはわからないがーー