冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
数秒待つと、
相変わらず、軽い返事が返ってきた。
この緊張感を一気に吹き飛ばす声に、
思わず、
ふ、
と笑みが零れた。
『なんだよ、紘~。いきなり気取った笑いしやがって』
「いや、なんか……やっぱお前だな、と思って」
変わらない吉水の声に、俺は少し肩の力を抜いた。
『なんだそりゃ、たいした用がないなら切るぞ』
「待て、一つだけ。頼みがある」
『何だよ。手短にしろよー。オレはこれでも医者なんだから、忙しいんだ』
あぁ、だから、
「実織の手当てを頼む」
『え!? 手当てって、実織ちゃんどうしたんだよ?』
「撃たれた。肩の近くをかすったみたいだ。それに首筋も少しナイフで切った」
『な!紘っ、お前がついてて何やってンだよ』
あぁ……
何やってンだ俺はーー
実織を失うのが怖くて動けない結果が、
これか。
情けなさ過ぎる。