冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
と、
その時、馴染みのある殺気が近くなってきたことに気付いた。
「説教は、帰ったら聞く」
帰ったら。
帰れ、たら……
「……吉水、もし」
鋭さを増す殺気に、
俺は手元の銃を強く握りしめる。
「もし、俺に何かあったら、」
トクン、
その名を口のしようとするだけで、
鼓動が乱れる。
だから、
帰るその時まで、この名を口のするのは、
これで、
最後。
「実織を頼む」
メニュー