冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
近くなる殺気の中、
そう告げ、電話を切ろうとすると、
『やだね、そんな勝手な頼み事きけるか』
珍しく、大きく鋭い吉水の声が聴こえた。
「……吉水…」
再び携帯を耳に寄せ、
戸惑いながら、名を呼ぶと、
『いいのか?そんな事言ってるとお前から実織ちゃん奪うぞ。
それが嫌だったら必ず戻れ、紘。
実織ちゃんのもとへ』
いいな、
と、一言付け加えると、
吉水の声は消え、不通を知らせる機会音が響いた。
ツー、ツーツー
機会音を聞きながら、俺は目を閉じると、
よぎる、
吉水のそばにいる、実織の姿。
表情は思い浮かばないが、
俺以外の男のそばに実織がいる。
そう、思うだけで、
嫌な感情があふれた。