冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
「昨日は、あまりに実織様が可愛らしくて、ついふざけてしまいました。お許しください」
「じゃ、じゃあ…、愛人とか、遊ばれて、ズドンとやられて、川に浮かぶとかは…」
「こちらのお屋敷は、立派な家系です。ここの主、紘夜様もきちんとした由緒正しき家柄のご子息でございます。何の心配もありません」
じゃあ、
じゃあ…私が見た、あの紅い光景は?
あの男は、
俺が殺ったと言っていた……。
あれは、
あれは夢じゃない。
だって、覚えてる。
掴まれた肩の痛みも、
目の前にひろがる、紅い光景も
雨の冷たさも
全部覚えてる。