冷たい雨に咲く紅い花【前篇】

「足りないものがありましたら、おっしゃってください、実織様」

私に綺麗な微笑みを向けて、静音さんはお辞儀をする。


「…あの、その実織〝様〟っていうのはやめて欲しいです。そう言う人じゃないし。実織でいいです」

「そう言う訳にはまいりません。実織様は紘夜様のお客様ですから」

「や、お客じゃないと思いますよ。担がれて、ここに連れてこられたし」

「紘夜様は、実織様の身を心配なさってたのですよ。
雨に濡れた実織様が風邪をひかぬ様、バスルームにお連れし、
ご家族が心配なさらない様、実織様のご家族に電話で連絡もなさいました」


えっ!?



「家族に、って、私の!?」

「ええ、もちろん。そのお電話で、一週間実織様をお預かりする事も、ご家族に承諾を得ました」


な、…なんと…

「電話っ、電話貸して、静音さん!」




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