冷たい雨に咲く紅い花【前篇】

ー実織ー


あの雨から5日。


毎日テーブルマナーや招待客リストなるものを覚えさせられ、
その分、数学の公式も英単語も、どこかへ飛んでいくようだった。


ただ、あれから毎日、ウチへ電話させてもらえた。

この時だけ、紘夜の隣の部屋に子機を持ってきてくれて。


ただ
紘夜の目の前で、だけだけど。



今日も夜になりウチに電話すると、よりにもよって出たのが
ジュン兄だった…。


「ーだから、あと2日、明後日には帰れるから」

『なんだそりゃ、なんで明後日なんだよ!?』

「んー、お医者さんがそう言ったの! 明後日までは動かない方がいいって」

『だから、迎えいくって』

「ダメ!! あ…いやいや、大丈夫、大丈夫だから、」


『あやしい…。実織、お前なんか隠してんだろ!?』

「か、隠してないよ、何も…」


その時、


視界の端から、紘夜の姿が消えた。


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