冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
あれ? どこ行くの?
いつもは、電話が終わるまで動かないのに…
私は気になって、電話の子機を持ったまま紘夜の後を追った。
廊下に出たところで、
紘夜は煙草に火を点け、黒いコートを羽織った。
「どこ行くの!?」
思わず、紘夜にそう尋ねる。
紘夜は振り返ったけど、何も応えず、
電話を続けろ、と合図した。
『どこにも行かねぇよ、何言ってんの? お前』
ジュン兄のバカにしたような声が聞こえた。
違うよ、ジュン兄の事じゃないって。
『こんな雨の中、夜になってまで出たくねぇよ』
「雨?」
言われて、窓の外を見る。
微かな音を立てて、雨が降っていた。