冷たい雨に咲く紅い花【前篇】
「…ー無理でも何でも、今できるのは私しかいない。静音さんには知られたくないんでしょ?」

平気なフリをして、黒いコートを脱がせる。


紘夜は、それ以上何も言わなかった。




コートを脱ぐと、
薄いグレー色のシャツ左側は、どこが傷口か分からない程
紅く染まっていた。



一瞬、動かしていた手が止まる。


だめ、怖がっちゃ…
今、私しか、いないんだから。




でも……


「ねぇ、こういう傷って、どうすればいいの?」


「…お前、それでよく手当てするなんて言えたな」

「う、うるさいなっ。だって今まで傷なんて、消毒シュシュッとして、絆創膏ペタ、ぐらいしかしたことないんだもん」



これはさすがに、シュシュッ、ペタの規模じゃないし……



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