ほら、笑って笑って

本当は会いたい。


時間が経っても、なかなか私の中から消えない大好きな人。




でも、隼人さんにとっては、お姉さんを苦しめた最低な女だと思うから。


もう二度と会わない事で、彼の記憶の中から消えてしまいたい。




そして私も、叶わない想いを忘れられたら――。





零れそうになる涙を堪え、もう一度社長に頭を下げる。



「社長が、今日、私と会っていた事を知ったら、隼人さんは悲しむと思うんです。
隼人さんの"傷ついて欲しく無い"という言葉にはきっと、傷つけないで欲しいって意味が込められている様な、そんな気がするんです。」



自分で言いながら、どんどん落ち込んでしまう。


でも、隼人さんだって、私になんて会いたくないはずだから。




「――高原さん、あのね」

何か言おうとしている社長に、もう一度頭を下げて、


「――今日は、私、これで失礼します!!」



叫ぶ様にそう告げ、カウンターに千円札を二枚置き、足早に店を後にした。



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