ほら、笑って笑って

この雨で六義園のしだれ桜も散るのかな?


寂しいなぁ。



「お母さん、こんなに雨が降ったら桜散っちゃうかな?」



ぽつりと呟やくと、お母さんは私の隣に来て同じ様に外を眺める。


「…そうねぇ。」


「やっぱりそうだよね。せっかく綺麗に咲いてるのに。」



私のぼやきを聞いて、お母さんはくすりと笑う。



「桜は花の命が短いからこそ、儚くて切なくて、惹かれるのかもしれない。すぐに散ってしまうからこそ、魅了されて忘れられない…だから、桜の時期には皆こぞってお花見に行くんじゃないかしら?」



「…命が短いからこそ、儚くて切なくて」






何気ないお母さんの言葉。



だけど。


何だかとても、切なかった。







「――じゃあ、行ってくるわね。」


「うん。気を付けて。」



玄関を閉めたお母さんに笑顔で手を降る。



そういえば、何処に行くのか聞かなかった。


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