ほら、笑って笑って
「…優衣、居ないわね。」
「そうだな。」
え?
今のって、まさか。
バックヤードからそっと顔を出して会場を覗くと、
想像通りの二人が、辺りをキョロキョロと見回していた。
「――お父さん、お母さん。」
慌てて駆け寄り声をかける。
すると、二人は揃ってこちらを向き、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「優衣。探したわよ。」
「探したわよ。じゃなくて――何でいるのよ…恥ずかしいから来ないでって言ったじゃない…」
「まあ、いいじゃないか。たまたま、父さんが休みだったから、見にきただけだ。」
「そうなの、お父さんが会社お休みだったから。」
お父さんが会社休みだったから?
意味が分からない。
…はぁ。
白々し過ぎる二人の言い訳に、ため息しか出てこない。
"だって、見たかったから"
思いっきり、顔にそう書いてあるし。
「……もう、いいや。とりあえずさ、隼人さんは忙しいから話し掛けたりしないでね?」
「分かってるわよ。」
と即答したお母さん。
ヒラヒラと手を振りながら、お父さんと共にどんどん会場内へと入って行ってしまった。
……本当に分かってる?