ほら、笑って笑って



「…優衣、居ないわね。」

「そうだな。」





え?

今のって、まさか。



バックヤードからそっと顔を出して会場を覗くと、

想像通りの二人が、辺りをキョロキョロと見回していた。





「――お父さん、お母さん。」


慌てて駆け寄り声をかける。



すると、二人は揃ってこちらを向き、嬉しそうに笑顔を浮かべた。




「優衣。探したわよ。」


「探したわよ。じゃなくて――何でいるのよ…恥ずかしいから来ないでって言ったじゃない…」


「まあ、いいじゃないか。たまたま、父さんが休みだったから、見にきただけだ。」

「そうなの、お父さんが会社お休みだったから。」



お父さんが会社休みだったから?

意味が分からない。


…はぁ。

白々し過ぎる二人の言い訳に、ため息しか出てこない。


"だって、見たかったから"

思いっきり、顔にそう書いてあるし。




「……もう、いいや。とりあえずさ、隼人さんは忙しいから話し掛けたりしないでね?」


「分かってるわよ。」


と即答したお母さん。

ヒラヒラと手を振りながら、お父さんと共にどんどん会場内へと入って行ってしまった。



……本当に分かってる?



< 211 / 304 >

この作品をシェア

pagetop