ほら、笑って笑って
涙を流しながらお母さんは話続ける。
「あの日はアルバイトがあって、帰りが夜8時をまわっていたの。辺りはすっかり真っ暗だったけど、自転車だから大丈夫だと思ってた。
だけどね、車一台分程の狭い道路を走っていたら、前から凄いスピードでワゴン車が走ってきて、ぶつかりそうになって、咄嗟に避けようとして、自転車ごと転んで……
中から男が二人降りて来て、倒れてる私を、無理矢理車に乗せて……」
「お母さんもういいよ!」
思わず叫んでいた。
ガタガタと震えながら言葉を落とすお母さんは、明らかに顔色が悪くて、私の顔すら見ていなかった。
思い出したくない忌まわしい記憶なんだと、お母さんを見れば嫌って程分かる。
「……ごめん、もう、いいから。」
私まで恐くなって、泣けてきて、声すらちゃんと出なくなる。
俯いて涙を堪える私の手を、お母さんは震える手で優しく握ってくれた。
「…優花の事が知りたいんでしょう?」
「……」
「お母さんは大丈夫だから、優衣もしっかり聞いて?………あなたの、姉の事だから。」
"姉の事"
その言葉は、ずっしりと重たい杭を打たれたみたいに、私の胸に真っ暗で大きな穴をあけた。