ほら、笑って笑って


「――小峠…」




「優花ちゃんの事、隼人君から聞いてないのか?」




ずっと、何も言わずお母さんの背中を撫でていたお父さんは、優しい口調で私に聞いてきた。




「…聞いた。」




ある程度は。

そっか、確かネットで調べた時、"小峠優花"って書いてあったかも。



「でも…優花さんが養女だなんて聞いてない。」


わざわざ言う必要がないから?



「それは多分……知らないから。」




俯いたまま、お母さんは呟いた。



「優花自身も、自分が養女だなんて、知らなかったはず。……あの子は私の存在を知らないまま亡くなったから――。」





お母さんの頬を伝う涙を見たら、胸が苦しくなった。


私には計り知れない苦しみを背負っていたお母さん。


でもいつも明るくて、笑顔の絶えない人だったから、そんな心の傷は気付かなかった。






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