ほら、笑って笑って




明らかに言葉数の減った私を見てなのか、小峠さんは温かいコーヒーを出してくれた。




「…ありがとうございます。」




カップから伝わる温かさが、じんわり胸に染みてきた。




「温かい…コーヒー……嬉しいです。」



ほとんど声にならない声だったと思う。


でも、込み上げて来る思いが強くて、上手く話せなかった。





「良かった。外は暑いから、アイスコーヒーにしようか迷ったのよ。でも…温かい飲み物を飲むと、気持ちも暖まるでしょ?…優衣ちゃん、何だか震えていたから。」






そう話す声は優しくて、その表情も穏やかで暖かかった。





その瞬間、本当にこの人は暖かい人なんだと思い知る。


自然と涙が頬を伝う。






「……お母さんにも、ココア…入れてくれたんですよね…?

本当に、ありがとうございました。


お母さんを助けてくれて…ありがとうございました。」





私がお礼を言っていい事なのか、本当は触れてはいけない話だろうと分かってはいたけど、言葉を止める事は出来なかった。

自分でも説明できない複雑な感情だった。






この場所でお母さんは酷い目にあった。



でも、小峠さんに出会って助けて貰った。






その奇跡的な出会いのおかげで、

優花さんの命は育まれた。







そして、もし優花さんの存在が無ければ







隼人さんは


私に興味を持たなかったかもしれない。










何もかも、必然……?




こんな風に考えてしまう私は、やっぱり愚かで自分勝手なんだろう。



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