ほら、笑って笑って
「ただいま…」
玄関でサンダルを脱ぎながら、小さな声で呟く。
頭の中がいっぱいいっぱいで、声を張る事なんて到底無理だった。
だから、お父さんもお母さんも私が帰って来た事に気付かないと思ったのに。
「!!優衣……お帰り」
ずっと耳を済ましていたのか、リビングから慌ててお母さんが出て来た。
まるで私の帰りを待っていたかの様に。
「………お母さん、どうしたの?」
悩んでいる事を悟られない様に、いつもと変わらない私でいられる様に、自分に言い聞かせながら言葉を返す。
だけどお母さんは私を見つめ、目に涙を溜めている。
そして私の質問に答えようとはせず、
「ごめんね、優衣。」
か細い声で呟いた。