ほら、笑って笑って

守りたいもの


「ただいま!」

めいっぱい明るい声を出して玄関を開ける

19時
この時間ならお父さんも帰っていると思う

お母さんが自分で話すと決めた以上
話が出るまで私はできる限りいつも通り振る舞うつもり

隼人さんに支えて貰い泣けるだけ泣いてきた
暫くは作り笑顔も保てるはず
お母さんの前で私が泣いて取り乱す事はできないから何とか頑張らないと

リビングのドアを開けると
ソファにはお母さんの姿

「お母さんお弁当買ってきたよ。お父さんはまだ?」
「ありがとう。お父さんさっき帰って来て、今着替えてると思う…」

「お母さん?私からは言わないから、ちゃんと自分で話してね?」
「そうね…分かってる」

お母さんは力なく微笑む



それから数分後

「優衣、おかえり」

ドアを開けてお父さんがリビングに入って来た

「今日はありがとう。お母さんを病院に連れて行ってくれて、弁当も買ってきてくれたんだな。父さん何も知らなくてごめんな」

昔からだけど、うちの両親は仲が良い
こんな時お父さんは、自分が気づいてあげれなかったとか、何もしてあげられなかったとか、大抵そんな事を考えている

「大丈夫だよ、気にしないで」

いつもなら、微笑まし気持ちでいっぱいになる
本当に仲良しなんだから
って思いながらニコニコするのに


今はーーこの空気が変わる事を知っているから

レンジからあたためたお弁当を取り出すだけの簡単な作業ですら、力が入らず手が震えてしまう
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