ほら、笑って笑って
病院の広い駐車場に車を停める

きれいに色付いていた紅葉が散り始めた11月
そろそろ冬の気配を感じる肌寒さ

「お母さん寒くない?」

痩せてしまったお母さんは私より寒そうに思える

「大丈夫よ」

そう言って笑ってくれるけど、触れた手が冷たかった

「受付を済ませたら、温かい飲み物でも飲もう…よ」

そう言いながら、
自分の目に映る人物を見て動揺した

その人は私に気が付き笑顔を浮かべ近づいて来る

「お母さん、先に行ってて」
「知り合いなの?分かったわ」

お母さんは近づく彼に会釈をしてから院内に入る

「高原さん!お久しぶりですね」

以前より少しやつれた印象を受けるが
相変わらずの色気を放ち私に微笑みかける

「…常務」
「…元気かな?優衣」

お母さんが離れた事を理解してか
彼は甘い声で囁く様に私の名前を呼んだ
< 300 / 304 >

この作品をシェア

pagetop