ほら、笑って笑って
ずっと黙ったままだった社長は、軽くため息をついた。
「高原さん。とりあえず……頭をあげて?」
「いえ、ですが…」
確かに、ずっとこのままでいるわけにもいかないけど。
でも、頭をあげて話をするのも図々しい気がした。
「あのね、私、お客様を待たせているから。だから、ケーキを買ったら帰りたいの。」
「………はい。」
「とにかく今日は、予約したケーキを売ってくれる?」
「…はい。すみません。」
自分のした事が、余りにも情けなくて、子供っぽくて、自己嫌悪に陥る。
謝らなくちゃ。
って、自分の自己満足だけで頭を下げ続けて、忙しい社長の足止めをしてしまって。
人間としても、社会人としても最低。
溢れそうになる涙を必死に堪えながら、店の奥にケーキを取りに行く。
奥さんが予約を受けた時に書いた”二宮様”というメモを見て、また涙がこぼれそうになる。