ほら、笑って笑って
すると、少しの沈黙の後、社長は呆れた様にため息をつく。
「あなた、変わってるわね。」
「…え?」
変わっている?
「私が何事も無かった様に振る舞っているんだから、知らぬ存ぜぬで通せばいいものを――」
確かに、社長は具体的な事は一切口にしていない。
だからと言って、そんな、知らぬ存ぜぬなんて……。
「…だって、身勝手な私のせいで、社長や生まれたばかりの赤ちゃんまで傷つけてしまって…」
それを聞いて、社長は呆れた様に笑った。
「…じゃあ、とりあえずここに携帯番号書いて?
今日は時間がないから、今度ゆっくり話をしましょう。」
そう言って、社長はHERMESのバーキンから手帳を取り出し、私に差し出す。
思わず、ごくりと息を呑む。
そして私は、覚悟を決めて、携帯番号を書いた。
「…じゃあ、高原さん。ケーキは遠慮せずに頂いて行くわ。
それから、必ず連絡するから。」
そう告げて彼女は店を後にした。