水とコーヒー
僕はようやく先輩のもつ“個性”へのスタンスを理解した。先輩がこの会話の流れを意図したものなのかかどうかはわからなかったが、先輩はそんな僕の心情を見透かした様に、にっこりと笑った。

「でも、なんていうかその……霊……ですか。そういうのってどういう風に見えるんですか?」

「見えるっていうかねえ。まぁなんだろう。普通の人と変わらないわよ。ただ明らかに、他の人には見えていないってだけ」

「へえ…?」

「んー。例えばさ、雑踏の中でキミは普通にまっすぐ歩く?」

「まぁそうですね」

「色々人が歩いているのに?」

「ああ、そりゃ避けて歩きますよ」

「そうよね。向こうもそうしているわけ。見えているから避けて歩く。だから不注意だったり滅多なことがない限り、雑踏でもぶつかったりしないわけ」

「そうですね」

「でも、周りに見えてない人がいたらどう?」

「…ああ…」

「そういう風に見えるのよ。見えてない人が見えるって感じ」

「なんかすごく、今納得しました」

「そういう人が多い場所でなら、キミも見てるかもしれないんだよ?」

「えー?それはないでしょう」

「どうかしらね。だって例えば渋谷のスクランブル交差点とかあるじゃない。信号が青になったら一斉に歩き出すよね。すごい雑踏が。あれが“生きている人”だけだって確証がある?証明できる?」

「それは…」

「まぁそういうことなのよ。その程度のものなの」

先輩は僕の持ってきたオレンジジュースを飲み干してから、そう云った。あくまでも軽い口調で。
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