水とコーヒー
「なんか、その、例えば苦しそうな表情をしていたりとか、そういうのはないんですか?」

「んーそうね。あるよ。そういう人も沢山いるわよ」

「そういうのこう、寄ってこないんですか?」

「どうなのかなあ?あたしには滅多にないよ。なんていうか、そういう人って大概が一人で同じ行動繰り返しちゃってるのよね」

「…例えば?」

「食後に話すことでもないかもなんだけど…飛び降り自殺をした人って、何度も飛び降りるのよ。飛んだ直前の意識しか残ってないから、それがなんていうんだろう焼き付いちゃってるのよね。だから何度も飛び降りてる。学生時代の通学路にね、そういう現場があって、それは結構参っちゃったわね」

「うわぁ…そりゃあ…」

「そういうのは、やっぱりちょっとショッキングよね。でも意識して見ていない限り、どうこうっていうのはないわよ」

「意識して見る…ってどういうことですか?」

「んーと…例えば毎日キミが通勤してくる道があるわよね。そこでいつも同じ時間に電車に乗る人がいたとするじゃない。その人のことじーっと見つめたりする?」

「や、そんなことはしないですよ」

「じゃ、逆に見られていたら?毎日じーっと、ね」

先輩は僕の目を覗き込む様に目を大きくして見つめた。なんだか気恥ずかしくなって視線をそらす。

「そりゃ、なんかこうあんまりいい気はしないし、気になりますよね」

「同じ事。だから意識して見たりしない限り、向こうもこっちにアプローチをかけてきたりはしないわ」

「…なるほど」
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