水とコーヒー
他にもいくつかの質問をしたが、先輩の応えはいつでも的確で、僕はバカの一つ覚えのように「なるほど」や「へぇ…!」という感嘆の声を返し続けることになった。

そしてその度に僕の彼女に対する、そして彼女の“個性”に対する信頼度は増していった。


なんだかんだでケータイの時計表示をみると、既に時間は11時近くになっていた。天使が通るタイミングというやつだろうか。会話も一段落して、2人とも飲み物を口に運んでいた。

先輩は僕が持ってきた3杯目のオレンジジュース、俺はジンジャーエールから烏龍茶に変えていた。

コトリ、とテーブルにグラスをおいて一息吐くと、先輩は「さて…」と一言おいてから、再び会話の口火を切った。店内に流れている白々しいカンツォーネや他の客の話し声や食器の音などが、妙に遠くに聞こえた。なんとなく緊張してしまう。

「水泳教室。楽しかった?」

スカされたような話のフリに、思わず僕は少し面食らいながら質問の意図を読み込もうとしていた。

「ええっと…そうですね。楽しかったと思いますよ。友達もいましたし」

「そう。小学生の頃っていったわよね。ずっとこっちに住んでいたの?」

「いや、違います。こっちには会社入ってからですね。先輩はご実家でしたっけ」

「そうよー。大学は下宿してたけどね。会社に通うのが楽で戻っちゃったの。じゃあ小学校の頃はどこに?」

「あ、S県です。そこの県庁所在地のU市ですね。その前はS市です」

「あら、引っ越ししたんだ」

「親父の転勤が多かったもんで。結構転々としてましたね。一番長かったのはU市ですけど」

「じゃあ転校生経験ありなのね」

「あーそれがないんですよ。生まれてすぐ、幼稚園卒業、中学卒業、高校卒業、大学卒業で引っ越ししてたんで」

「区切り区切りで引っ越ししてたのね」

「そうですね。親父が単身赴任状態になってた時期もありましたよ(笑)」

「そうかそうか。じゃあ貴方が一番長く住んでいたのはどこになるのかな。U市?」

「そうですね…小・中と9年間ですから、一番長いです」
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