水とコーヒー
#4
「だから辿っていくの。これは一つの方法。貴方の一番長く住んでいた“家”。それは貴方という存在を構成している大きな要素になるの。だからそれを辿って、今の貴方に現れている変化を探すわけ」

「よく…わからないなりに、なんとなくわかりました。はい」

ごくり、と喉を鳴らして唾液を飲み下す。

「あの…」

「ん、なあに?」

「やっぱり、なんかツいてるんですか?」

「あ、うん。そうね」

随分軽く云ってくれる。

「えと、その…どんな…人が?ってか、人なんですか?」

「ああ、それは間違いなくヒトよ。女の人。結構若い」

「女の人?!」

記憶を一気に検索する。いや、知りうる限り取り憑かれるほどの恨みをもたれたり、というか今既に死んでいたりする過去の恋人や友人は存在しない…はずだ。

「えと…心当たりがないんですけど…」

「でしょうね。貴方には心当たりがまるでないと思う。だから私もちょっと困っているのよ。私はこの人から何も聞くことができないから」

「え…と、それって?」

「あー…うん、あのね、例えばこの人が貴方の親類縁者だとか、ご先祖さまだとか、そういうのなら、なんとかわかるのよ。メッセージっていうか、なにをして欲しいのかとか、貴方がなにをすべきなのか、とかね。あとは恨みを持っている場合とか」

後半の言葉は僕を十分に脅かしつつ、安心を与えるものだった。そうではない、ということは、どうやら僕にツいている人に僕は恨まれているわけではないらしい。
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