水とコーヒー
だからこそ、僕は先輩の言葉を信じて従おうと思った。本当に必要なこと、本当に根本的なことだけを、先輩は僕の口から話させようとしているのだ。

そしてそれだけでなんとか出来ると思う、そう云ってくれている。それだけでいいのならば、僕も恐怖感を抑え込むことが出来るだろう。

先輩の目を見つめながら、僕は黙って大きく頷いた。


「――それじゃ、始めましょうか」

「昔の家の中で捜し物をするのよ」

「捜し物、ですか…でも何を?」


「死体」


あっさりととんでもないことを云ってくれる。僕は唖然として先輩の目を見つめたが、そこには全くからかう表情もなにもない。真剣そのものの表情だった。

「死体、かもしくは、それに類するものね」

「いや、でも先輩。うちには死体なんかないですよ。殺人事件がおきたとかそういう部屋でもなかったし、葬式もうちじゃあげてないですし」

「うん。そうでしょうね。だけどこれは貴方の精神の中のことだから。現実はあんまり関係ないのよ。死体っていうのもイメージなのよね。私が貴方を誘導して、貴方の頭の中にある家を探せば、きっとどこかに死体か死に直結するイメージの何かを見つけるわ」

「じゃあ、その死体っていうのは…」

「うん、貴方にツいてる女性のよ」
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