水とコーヒー
「お風呂場、見てみましょうか」

「はい。あーここの扉立て付けが悪かったんですよね…懐かしいな、追い炊き釜だ。ハンドル付の…元栓がこっちで…洗面台もあって…特に異常はないです」

「お風呂の中も?フタしまってない?」


途端に僕は少しギクっとした。確かに頭の中で見ている風呂にはフタがかかっていた。三枚のパネル式のフタだ。ひょっとしたらこの中に死体が。女の死体がうずくまっているのかも知れない。

「…あけなきゃですか?」

「ええ。大丈夫よ。一緒にいるから」


とんとんとーん・とんとんとんとん。


「はい…」

僕は意を決して、意識の中で顔を背ける様にして風呂のフタをあけた。そして薄目で中を見る…とはいっても意識の中での出来事なのだが。しかしそこには水が張ってあるだけで、なにもなかった。

「なにもないわね」

「…ええ。ないです。沸かす前に水だけ張ったみたいですね」

「OK。じゃ次にいきましょうか」

「両親の部屋ですか?」

「そこは後回しね。居間に入ってみましょう」

「…わかりました」


とんとんとーん・とんとんとんとん。
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