水とコーヒー
「それもそうですね。で、これからどうするんですか?」

僕がそう問うと、先輩は少し居住まいを正す様にしてから、僕の目をまっすぐ見据えて云った。

「記憶が鮮明になっているうちに、貴方にツいているものを突き止めるのよ」

「…いよいよですか…」

僕の乾いた喉を唾液が滑り落ちる。妙に不自然なまでにゴクリと音を鳴らしながら。



先輩が『ツいている』という言葉を発した瞬間から、僕の背中にはじんわりとした不快感が訪れていた。

ここ数ヶ月の間、ずっと感じ続けている漠然とした『いつもの』不安感。

今日までの数ヶ月間、僕はずっとこの感覚に付きまとわれていた。

深夜、脂汗と動悸にまみれてに目が覚めることもしばしばだった。

誰もいないはずの部屋で奇妙な音が響く。

ときどき電灯がチカチカとなる(何度蛍光灯を交換しても、だ)。


だからといって、こういう話につきものの諸症状、つまり悪夢を見るとか、原因不明の高熱を出すとか、人の気配を感じるとかそういうことでもないのだ。

なんとも漠然としている。

漠然としすぎているのだ。


もちろん“ヒト”の仕業であることも考えたが、それならばそれで無言電話だとかサイコさんじみた手紙だとかが来てもおかしくないはずだろう。

なにしろ何ヶ月もなのだから、人間相手ならもう少し積極的な行動に出てもおかしくないはずだ。

ところがそうしたことはまるでなかった。


結局僕は段々と憔悴していってしまっていた。

なんとか仕事には出ているものの、いつでも顔色が悪く、常に倒れそうだと周りに心配されていた。

たまたま会議で一緒になった別部署の先輩に、会議後「あなた、すぐにミてもらったほうがいいわよ」と云われ、「いやー病院の先生はどこも異常ないっていうんですよねえ」などと応えたところ「お医者さんじゃ無理でしょ。そういう類のものじゃないから」と返されたのがキッカケで、今ここでこうしているのだ。
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