水とコーヒー
不思議な風景だった。

記憶通りならば、そこは向かいの団地がみえるはずだったが、そこに見えたのは白い風景。見たこともない様なひたすら白い世界だった。

いや、白いだけじゃない。その白は光の白。

惚けた様に窓を開けると、背後から先輩が呼びかけた。

「こらこら、キミはまだいっちゃだめだよ。やることあるんでしょう?」

我に返った様に振り返る。すると、先輩の横に女性が立っていた。ああ、この人がさっきの死体の人なのだ。

左右に分けられた長い髪の向こう側の顔は、うつむいていたので表情はよく見えなかったが、それでも見覚えのある顔ではないことだけは確かだった。

「さぁ、じゃあ彼女に道を空けてあげてね。これから少し長い旅になるから、見送ってあげましょう」

先輩の声に従って数歩後ずさる。

「さ、じゃああの明るい方にいってね。迷わないように。大丈夫だから」

先輩の声は優しかった。さするように死体だった彼女の背中をさわると、彼女は先輩の方へ軽く会釈をして窓に向かって歩き始めた。入れ替わる様に後ずさりのまま、僕が今度は先輩の隣に並ぶ。
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