水とコーヒー
「ん?吸わなかったの?」

「あ、はい。なんか吸う気にならなくって」

「そう…」

なんとでもとれる返事をすると、先輩はコーヒーと水を一別してからもう一度僕の目を見て、優しく微笑んだ。

「そっか、吸わなかったか…」

「えと…それがなにか…」

「んーん、なんでもないわよ。でもね、ちょっと嬉しくなったかな」

「…?」

よくわからない。だが先輩は嬉しそうだった。嫌煙家ではないといっていたのに、タバコを吸わないで待っていた事が嬉しい?まるでわからない。

その疑問も含めて先輩に様々な質問をぶつけようとしたのだが、それを悟った上で遮る様に、先輩は「あーお腹すいちゃったよ。ね、甘いものとか頼んでもいい?」と聞いてきた。勿論断る理由はなく、なんでも好きなものをどうぞ、とメニューを渡しつつ、僕は一番の疑問をぶつけてみた。

「先輩、あの…あの女の人って、誰だったんですか?」

「んー…このケーキがいいかな。こんな時間に食べるとアレかもしれないけどねー」

「や、その。教えてくださいよ先輩」

少し声が上ずってしまう。追求しなければ、なんとなくそのままはぐらかされてしまいそうな気がしたのだ。
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