水とコーヒー
唐突な質問だった。

「うーん…よくわからないですけど、やっぱりありがたいって思いますよね。その言葉で励まされたのなら、ですけど。余計なお世話ってな事いうヤツもいますからね」

「うん。哀れみとか同情とかね。そういうのとはちょっと違うよね」

「そう思います」

数時間前までの僕自身がそうだった。

「本当に励まされたのよ。自らの命を絶とうとしたときに、その人の言葉でね。生きてみようって思ったの」

「…はい」

「でもね、やっぱりダメだったんだなあ。前向きになってね、歩き出そうとしたときに、また躓いちゃったんだよ。意志の弱さとかさ、そういうことじゃないんだよね。どうにもならないって思いこんじゃったら、本当にもうどうにもならないんだ。前の時は大事な言葉をもらってね、励ましてもらってね、なんとかなったんだけど…今度は戻れなかったんだって」

「…は…い」

「悲しいよねえ。残念だよねえ…。でも…戻れなかったんだよ。だから自分の手で人生を終わらせちゃったの。でもさ、それは自分の人生だから、あたしはあんまり否定しないの。自殺をね、逃げだっていう人は多いけど、自分の人生の終着を自分の手で決めるっていうのは、自分にしか許されない権利だからね。悩んで悩んで、それで出した結論なら仕方ないと思うんだよね」

その点は僕も理解できた。

出来れば自分の大事な人達にそんな選択はして欲しくはないし、そんな権利を行使して欲しくはない。

だが、それでもなおその人が“その結論”を選ぶのであれば、それを否定する権利は、僕にはないからだ。

でも――。
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