水とコーヒー
「でも…でも、僕は彼女に見覚えがありませんでしたよ。本当に知らない人だったんです」

「そうね。彼女の方もキミの顔は知らなかったと思うわ」

「…どういうことですか?」

「言葉にはね、力があるのよ。そしてそれを生み出した人の魂が宿るの」

そして付け加える。

「どんな形であってもね」

「形…?」

「そう、直接交わす声にだす言葉であっても、電話越しであっても、手紙なんかの文章であっても…」

一旦区切って窓の外をみる、そしてそれから僕の目を見て言葉を繋げた。

「…ネットの掲示板とかブログなんかであっても、ね」

「…!」


途端に僕の記憶がフラッシュバックした。

数ヶ月前のことだ。あるブログのコメント欄で、さっき先輩の話した様な自殺についての意見のやりとりをしたことがあった。

話題になった記事だったので煽りや荒らしも入り交じって議論は白熱。本記事のコメント欄にいくつものレスがついて混乱状態になったので、トラックバックを貼って自分のブログにも記事を書いた。

自分のブログなんていっても、主にくだらない日記やネットゲームについて書いてあるだけのものだ。

ネトゲ仲間や身内だけが見に来るだけのような場所で、コメントも身内のものばかりだったが、その記事にだけは見慣れないハンドルネームの人からコメントがついていた。

一言だけ。


「ありがとう」


と。
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