水とコーヒー
『そういう類のものじゃない』。

じゃあどういう類のものだっていうんだと、そのときの僕は思い切り首を傾げたものだ。

なにしろ生まれてこの方二十数年間、まるで霊だの祟りだのと無縁に生きてきたのだから当たり前といえば当たり前だ。

そりゃあ人並みにそうしたものに興味はあったし、なにしろオカルトブーム直撃の頃に少年時代を過ごしたから、ひょっとしたら普通以上に知識はあったかもしれないが、あくまでも知識の話だ。

信じる信じないで云えば「あってもいいんじゃない?」程度のものだし、だからといって盲信するわけもない。

なにしろ霊感というものがまるでないのだから、それ以上進むまでもなかったし、大人になるにつれ、そういう話は夏の風物詩以外の何者でもなくなっていた。


それが突然、それこそ降ってわいたかの様にそんなことを云われたのだから面食らった。

自分のデスクに戻って、先輩の話を女子社員に聞いてみると、どうもやはり“そういう人”らしいということはわかった。

ただ進んでそういう話をする人ではないし、別に脅したり見返りをとったりとかそういう事でもないらしい。

女子社員の中には彼女を崇めているのもいるらしいが、先輩の方はきっぱりと「そういうのはやめてね」と云ったとかなんだとかいう事らしい。


中学時代の知識を動員して、さまざまな条件を照会してみると、なんとも“ホンモノ”臭が漂う雰囲気ではある。

そして僕がどういうわけか不調なのは確かであって、次はいよいよ“別の病院”にいって診てもらうべきかと悩んでいたこともあって、その前に飯をおごるくらいで“ミて”もらうことができるなら…と、極めて軽い感じで先輩を夕飯に誘ってみたのだ。

期待というよりは興味半分で。
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