センチメンタル自販機
「あははは、そんな真剣に数えなくたって大丈夫だって」

「そ、それは……! で、でも、さっき君が初心者は二十回振れって」

「くらいだよ、くらい。一回も二十回も大して変わらないさ」

「……それは結構な違いがあると思うんだけど」

「とにかく、開けてみなって」

「…………」


パキッ、という軽い音。

タブを引っ張るこの瞬間は、わりと好きな時間の一つ。

缶の中身を覗き込もうとしたけど、飲み口の隙間からは鈍い黒が遠慮がちに広がっているばかり。

少しだけ目線を上げてみれば、彼は口元から缶を離し、興味深そうにこちらを眺めていた。

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