イラツエ
1
あの日は月の光が朧に届く闇の濃い冬の日だった。

冷たい夜露に濡れた草の生々しい臭いが鼻に届く。


びょうっ。
耳に冷たい風が切り裂くように当たる。
風に逆らうように、突き進む。
四肢を使って闇の中を主人の望む標的のもとへ。
ただ一度、初めて踏み締めたあの部屋以外の世界も暗かった。
主人が付けた標的への道標。
蜘蛛の糸のように細い、呪術独特の光によって作られた道標。
ひとつの山と森と川を越えた先にある標的の家。
大きな門と高い壁に囲われた屋敷。
主人やアタシと同じように死臭と腐臭が漂う場所だった。


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