イラツエ
食事が終わると、また元の部屋に戻って、寝ていた台に寝転ぶ。
食べた後は眠くなってきた。
あの後は、ルゥディリードじゃない、ルゥディーと呼んでくれとしつこくて。
何十回とルゥディーと呼んで満足してやっと寝かせてもらえた。
まだ薬が残っているのか、眠い。
ふぁぁと欠伸を噛み殺すと、ルゥディーが顔にかかった髪を払う。
なんだか警戒するのも億劫でそのままにする。
説明の続きを聞くと、なんだかよく分からなかったけれど、結局蠧家の主人は捕まってアタシは二度と会わなくて良くなったみたい。
そしてアタシの罪は、主人が全部負ってくれるそうだ。
『だって結局昨夜の梁家も、重傷者は出したけど、誰も死んでないしね』
重傷者やあの場にいて被害に会った全員に、僕と王家と蠧家から見舞金が沢山でて今はもう左団扇らしい。
『早く蠧の当主も死罪になればいいのにね♪』
にこりと微笑まれてどう返せばよいのか返答に詰まる。
蠧家以外の人間と話すのは初めてだから、笑顔でそんな物騒な発言をする事に違和感を感じるのが違っているのか判断付かない。
アタシは、もう、あの暗い洞穴のような生活を思い出したくないから、関わりが無くなるとい
うなら、どうでもいい。
正直、何か主人に対して言ったり考えたりしようものならあのかつて主人を取り巻いていたあの人達に襲われて、また逆戻りするのではと怯えてしまうのだ。
あの人達は沢山居て、毎日のようにアタシ達に投薬や、呪を掛けて実験していた。
悪い記憶しかない。
出来るなら消したい。
『とりあえず、リリーは何も心配しなくていいんだよ。まずは体を休めて傷を治してね』
ルゥディーはアタシの表情から、また何か悟ったのか、話題を変える。
傷は大体塞がってきているけど、金属の塊が当たった所だけ膿んだように血がじくじく滲み出てる。
『これはちゃんと治療しないと治らないよ』
腹に巻かれた包帯を、白いワンピースの上から触れられる。
ワンピースにも染みてきそうだ。
せっかく綺麗な服が勿体ない。
傷を見せるのは危険だ。
自分から弱点をさらけ出しているようなものだ。
だから普段は絶対に他人には見せない。
けれど、ルゥディーには寝ている間に治療されているし、その治療も正確にされているようだ。
蠧のように寝ている間に知らない薬を打たれて生死の境をさ迷うなんて事も無さそうだ。
なので、ルゥディーが傷に触れるのは許した。
『梁め、こんな傷を付けろだなんて誰も命令してないのに』
触れるか触れないかの手付きに、微睡みながら呟くのが聞こえた。
『でも、大人しいリリーも可愛いなぁ』
閉じた視界でも嬉しそうなルゥディーの表情はなんとなく想像出来た。