イラツエ
標的の部屋の引き戸に手をかける頃には、邪魔者とアタシの血でずぶ濡れだった。
毛の先から赤い滴がしたたり落ちる。
長い廊下の端にある部屋を開ける。
『このバケネコがぁっ』
開けた途端、最後の悪あがきで人間が飛び掛かってくる。
標的はその奥にいる年寄りのようだ。
アタシは向かってくる切っ先を避けずに突き進む。
刺され、削れて肉と血が吹き飛ぶが構わない。
大きく口を開いて咆哮をあげると標的に食いつこうと跳躍する。
ぱん。
後数㌢で喉元という所で渇いた音が響いた。
アタシの体は音と供に襲った衝撃のせいで真横に吹き飛ぶ。
驚きと痛みと興奮で頭の中をめちゃくちゃに掻き交ぜられたような困惑が生まれる。
なに?
部屋の隅の暗がりを薄目で睨むとそろりと人影が出てくる。
手には白い煙りのあがる小さな物。
見たことない物だがあの金属の塊に傷付けられたようだ。
『その傷は致命傷になるぞっなにせ聖銀の弾だからなっっ』
なにやら呟いて人間は標的を背にしてアタシに近付く。
致命傷はいい、が、標的を殺す前にやられては呪いが完全しない。
まずい。
がくがく震える四肢をつっぱり立ち上がる。
人間の口が歪んで引き上がるのが分かった。
人間はアタシたちよりも醜い表情をする。
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