イラツエ
深い深い闇の中にいる。
漂っているような浮遊感が心許ない。
思考が全く働かず、ただただ浮かんでいるだけ。
一瞬のようでいつから其処にいたのか分からないくらい長く、どれだけそうしていたのだろう、段々五感が鋭くなってくる。
触覚が伝えるツルツルとした手触り、そして視覚に射し込んでくる光り。
と、瞼があく。
眠っていたようだ。
此処が何処なのか理解出来ず、起き上がりたいが体がまだ回復してれいないのか、動かない。
こんなに体が重くなる程寝る事など通常あり得ない。
きっと薬の類いだと目星をつける。
昨夜最後に受けた矢のせいかと、刺さったあたりのふくらはぎに手をやる。
どうやら、人型に戻っているようだ。
毛のないつるつるとした肌に、清潔そうな包帯が巻かれていた。
目だけで辺りを伺う。
広い室内に、ふわふわの布の敷かれた台で寝ていたようだ。
薄く透けた布が頭上から垂れていて、それ越しに室内を見る。
扉が二つと、調度品があるだけで人影はない。
耳を立てて周囲の音を探るが、何も聞こえない。
よく自身を見ると、体を清められ衣服を代えられ、所々の怪我に処置が施されていた。
こんな事をされていたのに、眠っていたのかと
気持ち悪くなる。
自分の知らない所で触れられたという事実に身震いする。
白いノースリーブのワンピースから覗く手足や、衣服の下の肌をざっとチェックするが特に異常は無いようだ。
注射の痕や、暴力を振るわれた痕跡は無い。
本当に治療だけが目的なのだろうか。
こんな事は今までになく、困惑する。
コツコツコツ。
足音を耳が拾う。
二つのうち一つの扉の前で止まる。
一人のようだ。
寝ていた台から滑り下り、影に隠れる。
隙を見てこの場所から逃げ出せるならしたい。
アタシはまだ呪を完成させていない。
殺されるかもしれないが、昨夜の屋敷か、主人の元に行かなければ。
かちゃり、と扉が開けられる。
足音の主と一緒に良い香りが鼻腔に届く。
薄い布越しなのでよく見えない。
そのまま主はもう一つの扉の先に消え、またすぐ戻ってきた。
そのまま台に近付いてくる。
薄布を開けて中を覗いているようだ。
『あれ、何処にいったのかな』
思いの外、若い男の声がした。
アタシは台の下の隙間に隠れていた。
そこしか身が隠せる場所がなかった。
『部屋からは出れないよね。ご飯持ってきたよ、食べよう』
独り言にしては大きい、まさかアタシに話し掛けているのだろうか。
台の隙間から足だけが見える。
細かい刺繍の施された、鮮やかな上質そうな靴を履いていた。
『此処かな』
びくりと体が震える。
男が床に屈みこみ、覗いてくる。
水色の瞳と視線が交差する。
『いた、お腹空いたでしょ、出ておいで』
柔らかな癖のある金髪の若い男だった。
笑顔で手を射し込んでくる。
堪らず伸びた爪を近づくなと振る。
訳が分からず金切り声を上げる。
『ッッッ』
威嚇する。
睨み付け、牙を剥いて唸る。
何者なのだろう。
主人の仲間なのか、それとも昨夜の屋敷の者か、全くの第三者なのだろうか。
従うのが正しいのか、逆らうべきなのか。
情報が足りなさ過ぎて判断出来ない。
それを見越したように、男は無害そうに微笑みかける。
『其処にいてもお腹空くだけだよ』
確かに、ぐうぐうと腹は空腹を訴えてくる。
アタシは、とりあえず威嚇の声を止める。
ちらりと男を見るとただ微笑むだけだ。
そんな表情を向けられた事がなく、表情からは男の真意は読み取れなかった。
ただ、すぐに殺される事はなさそうという事だけは雰囲気で察せられた。
漂っているような浮遊感が心許ない。
思考が全く働かず、ただただ浮かんでいるだけ。
一瞬のようでいつから其処にいたのか分からないくらい長く、どれだけそうしていたのだろう、段々五感が鋭くなってくる。
触覚が伝えるツルツルとした手触り、そして視覚に射し込んでくる光り。
と、瞼があく。
眠っていたようだ。
此処が何処なのか理解出来ず、起き上がりたいが体がまだ回復してれいないのか、動かない。
こんなに体が重くなる程寝る事など通常あり得ない。
きっと薬の類いだと目星をつける。
昨夜最後に受けた矢のせいかと、刺さったあたりのふくらはぎに手をやる。
どうやら、人型に戻っているようだ。
毛のないつるつるとした肌に、清潔そうな包帯が巻かれていた。
目だけで辺りを伺う。
広い室内に、ふわふわの布の敷かれた台で寝ていたようだ。
薄く透けた布が頭上から垂れていて、それ越しに室内を見る。
扉が二つと、調度品があるだけで人影はない。
耳を立てて周囲の音を探るが、何も聞こえない。
よく自身を見ると、体を清められ衣服を代えられ、所々の怪我に処置が施されていた。
こんな事をされていたのに、眠っていたのかと
気持ち悪くなる。
自分の知らない所で触れられたという事実に身震いする。
白いノースリーブのワンピースから覗く手足や、衣服の下の肌をざっとチェックするが特に異常は無いようだ。
注射の痕や、暴力を振るわれた痕跡は無い。
本当に治療だけが目的なのだろうか。
こんな事は今までになく、困惑する。
コツコツコツ。
足音を耳が拾う。
二つのうち一つの扉の前で止まる。
一人のようだ。
寝ていた台から滑り下り、影に隠れる。
隙を見てこの場所から逃げ出せるならしたい。
アタシはまだ呪を完成させていない。
殺されるかもしれないが、昨夜の屋敷か、主人の元に行かなければ。
かちゃり、と扉が開けられる。
足音の主と一緒に良い香りが鼻腔に届く。
薄い布越しなのでよく見えない。
そのまま主はもう一つの扉の先に消え、またすぐ戻ってきた。
そのまま台に近付いてくる。
薄布を開けて中を覗いているようだ。
『あれ、何処にいったのかな』
思いの外、若い男の声がした。
アタシは台の下の隙間に隠れていた。
そこしか身が隠せる場所がなかった。
『部屋からは出れないよね。ご飯持ってきたよ、食べよう』
独り言にしては大きい、まさかアタシに話し掛けているのだろうか。
台の隙間から足だけが見える。
細かい刺繍の施された、鮮やかな上質そうな靴を履いていた。
『此処かな』
びくりと体が震える。
男が床に屈みこみ、覗いてくる。
水色の瞳と視線が交差する。
『いた、お腹空いたでしょ、出ておいで』
柔らかな癖のある金髪の若い男だった。
笑顔で手を射し込んでくる。
堪らず伸びた爪を近づくなと振る。
訳が分からず金切り声を上げる。
『ッッッ』
威嚇する。
睨み付け、牙を剥いて唸る。
何者なのだろう。
主人の仲間なのか、それとも昨夜の屋敷の者か、全くの第三者なのだろうか。
従うのが正しいのか、逆らうべきなのか。
情報が足りなさ過ぎて判断出来ない。
それを見越したように、男は無害そうに微笑みかける。
『其処にいてもお腹空くだけだよ』
確かに、ぐうぐうと腹は空腹を訴えてくる。
アタシは、とりあえず威嚇の声を止める。
ちらりと男を見るとただ微笑むだけだ。
そんな表情を向けられた事がなく、表情からは男の真意は読み取れなかった。
ただ、すぐに殺される事はなさそうという事だけは雰囲気で察せられた。