キミに宛てた手紙
目の前で一人の女性が、驚いた顔をしていた。
僕の足も止まっていた。すぐに記憶を漁ってみる。しかし、なかなか思い出せない。
25歳か、もう少し年上だろうか。セミロングの艶やかな黒髪。自信にありふれているような気の強そうな顔。
「……すみませんが、どちら様でしょうか?」
綺麗な部類に入るだろうその容姿を、思い出せなかった。
それなのに、なにかがひっかかる。なにかが、頭の奥にちらついている。
「ごめんなさいね、つい声をかけてしまって。君の事、少し心配だったから……」
長いまつげで縁取られた瞳が、少しだけ伏せられた。
「璃華子の姉の、伊沢莉緒よ」
そう言って、女性は控えめすぎるほどの微笑みを浮かべた。
すぐに思い出すことができた。