夏色のキミ〜sea side
黒雲
「高校生はいいわねぇ」
階段を上がっている途中だった。
撫で付けたような粘りっ気のある声に、思わず足を止めた。
嫌々階下を見下ろすと
真っ赤な口紅を引き ド派手な格好のあの人が、私を見上げている。
「ただいまの挨拶もないなんて、本当に可愛い気がない子ね」
きつい香水の臭いが ここまで漂ってくる。
気分が悪い…
ナイフで刺されたように
胸が痛い
「お兄ちゃんも、そんなのだったのかしら?」
紅く塗られた唇の端が ゆっくり吊り上がった。
“お兄ちゃん”
その言葉に
刺さっていたナイフで胸をえぐられた気がした。
足早に階段を上がり
逃げ込むように部屋へ入る。
―ガチャ
鍵を、かけた。
部屋の扉に
心の 中に―……