夏色のキミ〜sea side



外に出た時は もうすっかり日が沈んでいた。


放課後、さくらとファミレスで喋り込んでいたからだ。


話し始めると、つい時間を忘れてしまう


早く帰らなきゃ 普通の家の子ならそう思うが
私はそんな事は一切思わない。


帰ればまた あの人が居る

お父さんがいる。



“親父とちゃんと話せば絶対大丈夫”


あの海での純の言葉をまだ一度も実行に移していない。


いや、移すのが 怖い。


またお父さんに裏切られたらと思うと とてもじゃないけど何も言えない。


…だめだなぁ


重く、長い溜め息をついた。


お父さんにも何も言えない 純にさえ電話をかけられない


どんどん 日だけが過ぎていく。

私、このままでいいのかな


「……よし」


決心して スカートのポケットから携帯を取り出した


メモリを呼び出し すぐに発信ボタンを押す



―プルルルル プルルルル…


コールを伝える電子音

それだけで心臓が早く脈打つ



「はい」



5度目のコールで 本人の声が聞こえて、一瞬何も言えなかった


このまま切ってしまおうかとも思ったが
それじゃあただの悪戯電話だ。



「あっあの、もしもしっ」


名前も言えず慌ててそう言うと



「…亜紀?」



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