夏色のキミ〜sea side
「……」
「……」
保健室の先生が不在の為、私が手当てをする事になったが
お互い無言で、この上なく気まずい。
しかも 何が気まずいって
純が上半身裸な事が一番気まずい。
いや 気まずいと言うより緊張して、どうしたらいいのか分からない。
程よくのった筋肉に 本当に喧嘩慣れしてそうなごつごつした腕、背中
そこに残る数々の生々しい傷痕。
何ヵ所消毒すればいいのか分からないほどだ
背中、腕 肩…
こんな所にどうすれば傷が出来るのか
私には到底理解出来ない。
「…なぁ」
背中を手当てしている時だった。
純によって やっと沈黙が破られた
内心 良かった…と安堵する
ずっと沈黙なんて、とてもじゃないけど堪えられない。
「なに?」
私は静かに聞き返す。
純の背中がゆっくり上下し、落ち着き払った声が聞こえた。
「俺さ、中学の時 結構めちゃくちゃしてたんだ」
ピンセットを掴んでいた手が、止まる。
聞き返す事も出来ず、私はただ 時間が止まったみたいに固まった。
噂なら聞いていたし 私だって最初は疑っていた
だけど、噂なんてそんなもの信じてなかった。
純と接して 彼はそんな人じゃないと私は勝手にタカを括っていた。
だが、純は続ける
「やりたい放題してきたし、毎日喧嘩ばっかりしてた。悪い仲間とつるんで 色んな事した」
無言の私に、淡々と続ける純。
「でも、途中で気付いたんだ。俺 何してんだろって…喧嘩ばっかりして 何になるんだろうって」
窓から入ってくる風が 生暖かい。
その感覚だけが妙にはっきりしている
「だから、高校からはせめて普通にいようって思った…けど…やっぱり無理みたいだわ。自分のしてきた事が返ってきただけなのに、どうすればいいか分かんねぇ」
純は言い終わってから、ベッドの柵にかけてあったシャツを掴んだ
私は持っていたピンセットを近くの台の上へ置いてから
固く閉じていた口を やっと開いた。