夏色のキミ〜sea side
“一人で抱え込むな”
私の頭を撫でる 純の手。
その大きな手に 私は二度も助けられたんだね
なのに…私は純に何も出来ない。
それだけが悔しいよ…。
「―では、楽しい夏休みを」
やっと校長の長話が終わり、私達一年を先頭にぞろぞろと体育館を出る。
教室に戻り、一学期最後の大掃除をして 恐怖の通知表と夏休みの課題を渡された。
担任の手短な話もそこそこに、終業式が終わる。
「亜紀」
鞄を肩にかけてから 純に名前を呼ばれた。
椅子に座って手招きする純を見て、もしかして夏休みのお誘いかな と内心期待する。
「なに?」
何食わぬ顔で言ったが 私の心は踊っていた。
「あれから、どう?」
私の心とは裏腹に 少し抑えた純の低い声。
あれから、どう? その質問に少し首を捻ったが
「あ、嫌がらせの事?それなら お陰様でさっぱりなくなったよ」
「そうか、良かったな…って ちげぇよ」
ノリツッコミは建斗から伝授されたのだろうか
「いや、だからさ、海で話してただろ」
珍しく、核心を言わずに私に諭すように問う純。
そんな彼を不思議に見つめながら、私はない頭を回転させた。
「もしかして…お父さんの事?」
彼はこくりと頷く。
なんだ、だから遠回しに言ったんだ
純なりに 気を遣ってくれたらしい。
そう思うと嬉しくて、私を呼んだ用件が夏休みのお誘いじゃなかった事も
忘れてしまっていた。
「…前と変わってないよ」
一応 口角は上げておいたが 笑顔になっていただろうか。
いつかの今田里穂のような奇妙な笑顔になっていないか 心配だ。
「…大丈夫かよ」
純の反応を見て どうやら例の奇妙な笑顔になっていたらしい。
しまった、そう思って私は唇を噛んだ。