夏色のキミ〜sea side
あの頃は優しかったお父さん…
何であんな人と結婚しちゃったんだろう
私 新しいお母さんなんて欲しくなかったのに…
「亜紀」
そっと囁くような低い声にはっとして 顔を上げた。
「…どうしたよ?」
目の前に座る純が 心配そうに私を見つめる。
慌てて視線を外し、適当に花火を手に取った。
「何でもないよ ほらっ早くしよっ」
手持ち花火を純に渡し、少し離れた所でローソクを立てていた建斗とさくらに混ざろうとしたのに
「待て こら」
立ち上がる間もなく 純に手首を掴まれた。
驚いて彼に目を向けると
思っていたより近い距離にあった純の顔に、どきっとする。
暗がりでも分かる真剣な表情
私を見つめる真っ直ぐな瞳
手首を掴む 大きな手
私は
全てにドキドキしていた。
「一人で抱え込むなって言ってんだろ」
純 あなたには私の考えてる事が何でも分かるのかな…
掴んでいた手を離し 私が持っていた花火にライターで火を点ける純
紙の部分が一気に燃え、少ししてから火薬の所に ぶわっと火が点いた。
オレンジ色に輝きながら 勢い良く噴射する花火
「…きれい」
花火って こんなに綺麗だったっけ。
「…何か悩んでんだろうけど、今だけは忘れろ」
花火に照らされた純の顔は あの花火大会の時よりも近くて。
一本の花火を二人だけで見られて
ぐんと距離が近づいたような そんな気がしたの。