夏色のキミ〜sea side
「……一輝…」
お父さんの口からお兄ちゃんの名前を聞いたのは
いつぶりだろう。
まだ何も言っていないのに ソファーに座る私達を見て
お父さんはすぐに名前を呼んだ。
何年離れていたってやはり親子だ
お父さんの手から、持っていた鞄が ずるりとフローリングの床に落ちた。
「変わってないな。親父」
「…お前…な、なんで いつ帰って…」
パニックになるお父さんを落ち着かせ、事の成り行きを話した。
もちろん お兄ちゃんが家を出て行った理由も。
お父さんは戸惑いながらも真剣に相槌を打ち、時折お兄ちゃんに目を向けていた。
「……なんて事だ…一輝…お前、何でそんな」
「親父が親バカすぎるからだよ。そうでもしなきゃ、金作る為に家売ったろ」
「そ、それは…」
ぐ と詰まるお父さん。
どうやらお兄ちゃんの言う通り お父さんは家を売るつもりだったらしい
「俺が勝手にそうしたんだ 中卒で後悔なんかしてない」
はっきりと言い切るお兄ちゃんが 何だか格好良かった。
こんな兄を持っていたなんて 私はなんて幸せ者なんだろう。
「い、今は何をしてるんだ」
まだ状況がのみ込めず、混乱気味のお父さん
「15の時世話になった先輩の下で働いてる。現場の仕事なんだ」
そっか だから作業着なんだ。
隣に座るお兄ちゃんをちらりと横目に見る
ごつい腕
焼けた肌
ボロボロになった作業着
そんな風になりながら
私達を守る為に頑張ってくれていたんだね