優しい声
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■新しい毎日■
注射を打たれる寸前に
『絶対目ざめてみせる』
誓いながら意識は一瞬にして消えて。
さまよう夢の中でも私は絵本を読んでいた。
お腹にいる桜に私の声が届くようにゆっくりと。
はっきりと。
入院中も、毎日毎日。
この腕に抱く事ができるのかわからない我が子を思いながら、愛をこめて読み聞かせた。
時々お腹を蹴って
『お母さんもっと読んで』
と訴える桜に応えるように。
そして、私は全身麻酔の彼方に意識を飛ばされて。
…目が覚めた時。
体中がまだ混沌とした世界をさまよっていて、点滴の管と酸素マスク。
一瞬の後に感じた手をぎゅっと握ってくれる温かい力。
「…よく頑張ったな…。ありがとう…」
しっかり動かせない頭をようやくずらしてみると。
マスクをつけていてもわかる…まだ青ざめた表情の健吾が瞳を濡らしながら、私をじっと見つめていた。